2013年11月10日日曜日

古川日出男、読書メモ

以前に『ベルカ、吠えないのか』を読んで感心したので、
ずっと気になってた諸作品を一気読み。






   


『ベルカ…』は本当に面白かった!
古川日出男はこれが初体験だったんだけど、
「癖のある独特の文体」も気にならなかった。
イヌの物語として、ハードボイルドっぽい雰囲気を楽しんだ。
構想が素晴らしく、圧倒的にこれがベスト。


で、数年後に図書館で偶然であったのでこれを読む。
音楽に関係あるはなしかな、と思って。


   


結果的には、音楽とは関係がない。
というか、音楽がなくなっていく状況を逆説的に示しているのが
「サウンドトラック」という」タイトルなわけだ。

ただ、どんな音楽を聞いても音楽として認識できない主人公のエピソードがあって、そこの描写は少し面白く思ったので今度引いておこうと思う。

で、ド本命。

  


  

猫の話としてスゴイらしいので『MUSIC』を読みたかったんだけど、
『LOVE』の続編らしいので『LOVE』から読む。

で、3冊ぶっ続けて読んだ感想。
……うーん、文体に飽きてきたなあ。
『ベルカ…』はこの文体がピッタリだと思うんだけど、
さすがに全部これだとちょっとキツイ。
体言止めって、乱用されるとうるさく感じるなあ。

『LOVE』と『MUSIC』は、
古川日出男自身の愛猫の死と関係があるらしい。
古川日出男は、『MUSIC』を
「その猫の、最後の生命を駆けさせるために、疾走させるために、この作品を奏でた」らしい。
その気持ち、よくわかる。

最後に、これだけは記しておきたい。
『MUSIC』の奈良美智の解説は不要。
完全なる蛇足。
やや揶揄されて描写される登場人物のJIってのは、奈良美智をモデルにしているのだろうか?
だとしたら、あえて本人に小学生の読書感想文レベルの解説を書かせて、
その浅はかさや凡才ぶりを暴露させようとしたのだろうか。
そんな下衆の勘ぐりをしてしまうほど、この解説は無駄です。


2013年9月6日金曜日

『とんでもねえ野郎』、杉浦日向子、ちくま文庫、1995年

  


杉浦日向子の『百物語』は文句なしに面白かった!
ので、このマンガも手にとってみた。

まあ、特にあれこれ言うことないです。
面白かったです。

どんな時代でも、こういう男がいると安心するね。
杉浦日向子の他の江戸ものを読んでみたいね。

このマンガも職場近所の町立図書館にあったんだよなあ。
素晴らしいです。

2013年9月3日火曜日

『猫楠 南方熊楠の生涯』、水木しげる、角川文庫ソフィア、初出1991-92年

水木しげるによる南方熊楠の生涯のマンガ化。





  



巻末には水木しげると中沢新一の対談、
他に荒俣宏と中沢新一の解説文も収録。
まさに変態の競演。

当時の水木しげるは『ゲゲゲの女房』のブレイク前。
老いても作風を曲げずにこういう作品を書いてたのは心強い。
やはり続けることは大事。

昨日の丸尾末広と同じく、
この本も勤務先の近所の町立図書館に置いてあった。
公共図書館の素晴らしさはこういうところにある。


以下、荒俣宏の「解題」より。

『猫楠』とは、これまたなんとすばらしい迫り方だっただろうか。熊という語は、あまりにも民俗学的な意味を担いすぎていて、熊楠自身、ときには気楽に生きたいと思うこともあったろう。ハメが外れたときのクマグス、そこに彼の人格の愛らしさ、おかしさがあった。それを「猫楠」なるタイトルに象徴させたところなどは、まことに心憎い構成である。

 また、そのすてきな題名と同時に水木さんが選び出したのが、リテレートなる心躍るキーワードだった。日本では久しく聞かなかったこの語は、<民間学者>をあらわし、<文士>を意味する。それもただの学士や文士ではない。飯の心配にわずらうことなく、学に遊び、しかも人に敬愛の上を抱かせずにおかぬ者。これならば、ややもすると独善の匂いをただよわすエキセントリックなる語よりも、ずっと熊楠の本質を衝いている。もちろん、理と識の妖怪は世界の諸相を理解するのではない。はじめから知っている(リテレート)のだ。これぞ<脳力(リテレート)>と断じてよい。ミズキさんが描いたのは、そういう妖怪のなつかしい生涯なのである。

この「リテレート」は、「ディレッタント」とか、
フランス啓蒙時代の「フィロゾーフ」と比べてみたいキーワードでもある。
以後の課題。



『パノラマ島奇譚』、丸尾末広、原作江戸川乱歩、2008年


今更だけど、漫画家としての丸尾末広は初体験。
    






















出版社がエンターブレイン、コミックビームから出てるってのも納得。
2007年~連載、2008年出版というのもすごい。
そしてこの本が勤務先の町立図書館においてあるというのもすごい。
佳作です。


2013年8月17日土曜日

『エヴァ Q』、『宇宙ショーへようこそ』。



















ずっと気になってた『エヴァ Q』を観る。


 

エヴァ信者ではないが、
それなりにエヴァンゲリオンは同時代人として楽しんだ。
今でも『END OF EVANGELION』は名作だと思うよ。

でも、この『ヱヴァQ』はダメ。
ダメというかがっかり。
『序』、『破』、『Q』で終わるはずじゃなかったのかよ…
新設定とか新キャラとか出すならわかりやすく提示してくれよ…
…とか、ファンにとってはいまさらなことだろうけど、
ついていけなかったなあ。

エヴァは内容ではなく、演出を楽しむもの。
そのことをはっきりと認識できました。
そう考えると、
はじめの30分の戦闘シーンとかはカッコよかったかな。

個人的に一番よかったのが、
冒頭の「巨神兵東京に現わる」。
特撮オタクの庵野秀明らしいこだわりが炸裂。
あくまで巨神兵はナウシカの巨神兵なんだけど、
『エヴァ Q』がサードインパクトと
フォースインパクトをめぐる話ということもあり、
巨神兵がエヴァ、又は使徒にもみえてきて面白かった。
舞城王太郎の「言語」もよかったなあ。
冒頭の赤地のジブリクレジットも含め、カッコよかったです。



で、いつもレンタル店で目にしながら見送り続けてきた
『宇宙ショーへようこそ』を観る。




 



悪くないけど、もっと毒っぽさがほしかったかな。
なにやら娘は楽しんでたけど。
そういえば、『R.O.D.』もOVAとTVシリーズ両方観たけど、
今ひとつハマるところまでは行かなかったなあ。
設定は面白いと思ったけど、
もう一歩毒素というか狂気がほしかったです。

一つ面白かったのは、
子どもたちが宇宙パスポートをもらうための問題。

「宇宙人がやってきて、その宇宙人が自分の星の科学力で
 『地球人を賢くして、すべての問題を解決できるようにしてあげる』と言いました。
 あなたはその提案に従いますか? YES / NO」

だったかな。
これ、NO、「自分で解決するほうが楽しい」が正解なんだよね。
安易な植民化を防ぎ、
星間の対等条件による交渉を普及させるためかな。

調べてみると、公開は2010年。
『サマーウォーズ』は2009年なのに、
『宇宙ショーへ~』の方がずっと前のように感じました。

2013年8月16日金曜日

舞城王太郎と沼田まほかる。

充電期間は続く。

読もう読もうと思っていた本を読む。


舞城王太郎/『ディスコ探偵水曜日』(上)(中)(下)



まず最初は景気付けにこの饒舌な作品から。

文庫本にして3冊分、合計で実に1,500頁!
表紙からしてラノベだけど、内容も表紙を裏切らずラノベ。

しかし、ミステリを乗り越える強い意志を感じるし、SFだったりハードボイルドだったりして、ジャンル分け不可能だね、これ。

読んでる間は楽しかったのでこれはこれでOK。

でも、推理合戦の(中)は読んでてちょっと辛かった。
そうそう、途中で島田荘司の『占星術殺人事件』について
軽く「名作」と触れているところがあって、
そこはちょっと嬉しく思った。


    

で、次は小説っぽい小説を読む。

沼田まほかる/『痺れる』

いやあ、痺れました。
中年女のねっとりとした情念を描かせたら最高です。
読んでて嫌な気持ちになりさえする。
しかし、それはそれだけの力量があればこそ。
次回作も読みたい作家です。



そうそう、この本の奥付に、自炊に関する以下の文言があった。

本書の電子化は私的使用に限り、著作権法上認められています。ただし、購入者以外の第三者による電子データ化及び電子書籍化は、いかなる場合も認められておりません。

これは光文社の定型みたいで、
文藝春秋と講談社は以下のとおり。


文藝春秋 
本書の無断複写は著作権法上での例外を除き禁じられています。購入者以外の第三者による本書のいかなる電子複製も一切認められておりません。

講談社 
本書のコピー、スキャン、デジタル化等の無断複製は著作権法上での例外を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してスキャンやデジタル化することはたとえ個人や家庭内での利用でも著作権法違反です。

確認する前に既に自炊してiPadで読んでるんだけど…。
自炊に関して、出版社も意識してるってことですね。