2012年8月26日日曜日

『資本主義が嫌いな人のための経済学』、ヒース、山形浩生訳

不勉強な左派と図に乗った右派の両方をくさし、経済学の価値を認めるべきところでは認めろと主張するえらい本。

2012年3月18日 朝日新聞朝刊

2008年金融危機に始まる世界不況、さらには震災後には特に、「資本主義はもう終わり」みたいな物言いを無数に見かけてきた。これは特に左派に多いし、その人たちは資本主義の理論的根拠(と思っている)経済学も破綻したと言いたがる。

でもそのほとんどは、実は経済学の主張をろくに知らず、自分の主張も考え抜いていない。そしてその無知と怠慢につけこんで、現状維持の保守派が乱暴な議論をしても反論できず、おかげで万年負け犬の地位に甘んじている。

それじゃダメだ。資本主義のダメな現状を改善したいなら、左派もちゃんと勉強しようぜ、というのが本書だ。

というわけで本書は、筋金入り左派哲学者による、むずかしい綱渡りだ。経済学を濫用して既成体制の走狗と化した一部論者には鉄槌を。しかし優しさとか友愛とか、無内容なお題目を垂れ流す左派の情緒的議論にも手加減無用。本書の邦題は実に秀逸だ。まさに資本主義が嫌いな人こそ、ちゃんと経済学を学ぼう。実は、嫌いな部分を考えるヒントは既存の経済学でかなり議論されているんだから。それが本書の中心的な主張だ。

書き方や主張は実にストレートだ。個人的には「ヤバイ経済学」批判など少し異論もあるが、主張はおおむね納得できる。経済学者が書いたら、上から目線で無知な大衆に説教するような嫌みな本になりがちだが、それもない。

ただし内容的にはちょっと高度で、十分な理解には経済学について多少の予備知識はいる。また前半/後半で投げ出さず、是非とも全体をバランスよく読んでほしい。特に左派の読者は、ミイラ取りがミイラになったと思うかもしれない。資本主義だの合理的個人だのをかなり擁護する本だから。でも表面的な好き嫌いだけでそれを否定するだけでは前に進めないのだ。本書をきっかけに、それに気がつく人が一人でも増えてくれれば……


書評備忘。
引用元は山形浩生「経済のトリセツ」から。

本職とも関係するので、ぜひ読みたい/読むべき本。





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