2012年11月15日木曜日

「痴話げんかで止めておけ」 竹島問題への岩井志麻子のコメント。


朝日新聞朝刊、2012年9月19日より。
少し古い記事だけど、感心したので引いておく。

「痴話げんかで止めておけ」  岩井 志麻子さん 作家


こないだ韓国の新聞に「極右作家」って書かれたんです。「竹島は日本の領土でしょ」って、当たり前のことを言っただけで。極右って、あなた。私もちょっとびっくりですよ。

確かに、私の携帯電話の着信音は君が代で、メールは同期の桜。韓国の空港でわざわざ鳴らして「ほら、チョッパリ(日本人への差別表現)って呼んでみろ」ってけんか売ってますけどね。みんな聞こえないふりしてますよ。関わらんどこ、みたいな感じで。自分でも何がやりたいのか分かんないんですけど。

そんな私ですが、夫は韓国人です。29歳の。普段、私は東京、夫はソウルに住んでいます。で、どちらの家でも犬を飼ってるんですが、こないだ離婚したら犬をどうするか、みたいな話になったんですね。ちなみにソウルの犬を私は「竹島」、夫は「独島(トクト)」と呼んでます。

夫が言うにはソウルの道端で拾った犬だし、面倒を見てるのは自分だから僕のだ、と。でも私にしてみれば、ソウルの家賃を払って餌代出してるの誰だって話ですよ。東京の家も私の名義だし、光熱費から何もかも私が払ってる。なのに家の中ではチャンネル権から何から優先権はすべて夫にあるんです。

だいたいね、私が本気で怒ってライフライン止めたら、あやつは路頭に迷いますから。トッポギだって食えなくなるんです。それを犬も家も実効支配、いや不法占拠しとるんです。

でもそこで、本気でけんかして「竹島ちゃん」の領有権を争ってどうなるんか、って話なんです。わんぱく相撲で力士が子どもを張り飛ばしたって、あいつは強いなんて誰も言わない。力が上の者がうまく負けてあげることが大切だし、その方が格好いい。「愛国じゃ、愛国じや」って言って、本気でけんかして、戦争なんてことになっても誰が得するんですか。

日韓関係は、夫婦みたいなもんです。「嫌い」って一生懸命に叫んでる人がいますが、叫ばずにいられない、叫ばざるを得ない、そんな気持ちの強さは愛以外の何ものでもない。トリニダード・トバゴが目障りでかなわん、なんて人はおらんわけで。痴話げんかはするけど本気ではやらない。「なめんなよ」とは言うけど、すぐにカチ込みはしない。夫婦関係も隣国関係も、そういう約束の上で成立しているものでしょう。
 
そもそも、よその国をおとしめて自国を愛するという愛国心は、ようないと思いますよ。あなたの国は良い国ですね、うちの国も良いですよ、と言った方が、母国の良さが相手に届くでしょう。それこそ真の愛国じゃないですか。よその国を尊重する気持ちがない人は、愛国者を名乗っちゃいけんのじゃないですかね。

(聞き手・秋山惣一郎)


いいなあ、岩井志麻子。

サイバラさんのマンガの数々のエピソードで好きになったけど、改めて好きになりました。

何か伝えたいことがあるとき、
それを真正面から論理的に述べるのが定石。
でも、論理ではうまく伝えきれないことがあるときは、
比喩や物語を使って説明した方が効果的なこともある。

そもそも小説や神話というのはそのためにある。
人がうまく言語化できない考えや感情を表現するメディアで、
その意味で岩井志麻子ってやっぱり作家だったんだなあ、
と深く感心しました。


あと、本人の経歴紹介の欄の、
「ウィットに富んだ下ネタが好評でテレビ出演も多数」もいい。
この紹介のされかたは、本人も満足なことでしょう。